MIKIMOTO Designer Interview from WTS No.8

―MIKIMOTO のジュエリーにはどのような美意識やスタイルが息づいていると思われますか。

様々な要素 – 宝石や人、そして真珠というものを優しく柔らかく結び付けていく、しなやかな美しさが MIKIMOTO のスタイルであると考えています。
なぜそのような美意識や価値観を持っているかというと、やはり MIKIMOTO が真珠養殖のオリジネーターであり、海や自然との対話を大事にしてきた考え方が、デザインやものづくりの中にも息づいているからです。

―世界のハイジュエリーブランドの中で、MIKIMOTO はどのような存在だと感じていますか。

今現在、ラグジュアリーブランドはたくさん存在しますが、そのほとんどがおそらくヨーロッパ発祥です。
MIKIMOTO が稀有な存在として言えることは、東洋初、そして日本発のラグジュアリーなグローバルブランドであるということです。東洋をベースにしながらも、西洋のジュエリーという文化をうまく取り入れ、独自のスタイルで昇華させているという点では非常に特別なブランドであると考えています。

―他のジュエリーブランドと比べて、MIKIMOTO のデザインはどのようなところに違いがあるのでしょうか。

他のブランドと一番違うところは、真珠の使い方です。
いわゆる真珠が1列に並んでいるネックレス、あのスタイルは、実はMIKIMOTO が養殖真珠を発明したからこそ、世界中に広まったスタイルなのです。
また、近年で言うと、ハイジュエリーを中心とした中で単純なネックレスではなく、真珠を編み込んで立体的な大きなリボンにしたものや、何重にもドレープがあるジュエリーなど、新たなスタイルに対して冒険していくところは、他のブランドと違うところだと思います。
創業者、御木本幸吉の時代から受け継ぐイノベーティブなスタイルと、クラシックなスタイルが常に混在している点が特徴と言えます。

―時代の流れとともに、MIKIMOTO のデザインはどのように進化してきましたか。一方で、今も変わらず大切にしている要素は何でしょうか。

デザインの変遷を見ていくと、実はお客様の変化などによって変わってきた部分があります。
創業期から戦前までは、日本の上流階級層が着用することが多く、MIKIMOTO 独自の叙情的な、左右非対称な流れや線の美しさを生かした、平面的で軽やかなスタイルが特徴でした。
戦後以降は、顧客層は多様化し、国内外の多様な価値観を持つ顧客が増加したことで、デザインの表現も幅広くなりました。
近現代のデザインは、過去のものよりも立体的でボリューム感があり、創造的な喜びを表現するようなデザインが増えています。

―デザインを考えるとき、大切にしているポイントや美意識はありますか。

最も重要なことは、地金、真珠やダイヤモンドなどの宝石といった構成要素間の調和です。
そしてその中心に身に着ける人、更に職人の技術、テクニックが存在し、この3つの要素が調和することで、美しいジュエリーが生み出されます。
そしてこの調和が、身に着ける人のどの場所に配置された際に、最も美しく、宝石が輝き、身に着ける人が最も魅力的に見えるかを決定付け、その3つの要素を繋ぐ間に、デザイナーのスタイルや造形、バランスが存在しています。
デザイナーは、これらの技術を最大限に活かすデザインを追求し、素材、人、技術、職人の技を調和のとれた形で結びつけることを重視しており、アイデアを膨らませ、発展させることが、デザインプロセスにおいて最も重要な要素となります。

―真珠だからこそ生まれる表現や、他の宝石にはない魅力はどんなところにあると思いますか。また、真珠のデザインで特に難しい点はどのようなところでしょうか。

真珠のネックレスは、その連なる様式に独自の魅力があります。
球体状の真珠が連なるシンプルなデザインでありながら、力強さを感じさせます。
また、他の宝石と一線を画す点として、ダイヤモンド、ルビー、サファイアなど、この世に存在する様々な宝石素材、それらすべてに真珠は調和することができます。
その理由は、力強く輝くのではなく、光を吸収しながらふわっと光る真珠独自の光沢にあり、人の肌と宝石の輝きの間に調和をもたらすまろやかな光沢は常に新鮮な感動を与えてくれます。
真珠のデザインにおける難しさとしては、まず、真珠そのもののバリエーションの多さが挙げられますが、色や輝きに様々なバリエーションがあるため、真珠と他の宝石を組み合わせる際には、微妙なニュアンスの選び方が重要です。
 MIKIMOTO のデザイナーとしては、この微妙なバランスを敏感に捉え、真珠と他の宝石の最適な組み合わせを見極めることが求められます。

―デザインのインスピレーションはどのようなところから得ていますか。

基本的にはそれぞれのデザイナーに個性やバックボーンがあるのですが、それとは別に MIKIMOTO 創業当時からのアーカイブというのがあります。
120年以上前からのデザインが残っているのですが、そのような資料を研究していくというのも一つのインスピレーション源となっています。
私自身のことでいうと、絵画や彫刻、建築、あるいは舞台芸術など、人が作ったものからインスピレーションを得ることが多いです。
マスターピースと呼ばれるようなものを見ると、それを作った人の情熱や創意工夫を感じ取ることができますし、非常に心を惹かれます。

―これから挑戦してみたいデザインや表現はありますか。

新たなスタイルのネックレスのデザインに挑戦してみたいですね。
現在、最も一般的なスタイルである、同一サイズの真珠が一連のネックレスとして連なるデザインですが、このシンプルな洗練されたデザインを基に未来へと続く、100年先まで語り継がれるようなスタイルのネックレスを、真珠をベースにデザインしたいという強い気持ちを持っています。
もう一つの挑戦として、日本の文化や伝統工芸の技術的な要素を、より現代的に取り入れたデザインにも取り組んでみたいと考えています。

―MIKIMOTO のジュエリーは、身につける人の心にどのような変化をもたらしてほしいですか

MIKIMOTO のジュエリーは、着けていただく方に前向きなエネルギー、優しさ、そしてそれらを体現する力を与えることを目指しています。
真珠が自然から生まれるように、ジュエリーもまた自然から生まれ、その美しさを身につけることで、自然と調和します。
この調和から生まれる優しさは、着用される方から周囲の人々に伝わっていくものだと思っています。

―MIKIMOTO でデザインすることに、どのような誇りややりがいを感じていますか。

最高の素材、最高の技術、そして非常に素晴らしいお客様がたくさんいらっしゃる MIKIMOTO  でジュエリーをデザインできるということが、世界中ここにしかない環境だと思っています。
素晴らしいジュエリーを作るためには、お客様の存在が不可欠で、お客様がジュエリーの価値を認め、その対価をお支払いいただくことで、私たちは創作活動を続けることができています。
お客様、厳選された素材、そして優れたクラフツマンが一体となった環境は、世界でも数えるほどしか存在しません。そのような環境でジュエリーを創作できることに、日々喜びを感じています。

鈴木 悠《ジュエリーデザイナー》