D’ORSAY Special Interview

1830年、フランス・パリで誕生したD’ORSAY(ドルセー)がブランド初となるエクストレ ドゥ パルファンをローンチした。

今回WTSは、新作、そして合わせて特別に製作された什器、そしてブランドについて話を伺った。

1.今回発売される新作3種類について教えて頂けますでしょうか?

今回発売される新作は、”本能”をテーマにしたものです。

FLOWER LUSTは、マスターパフューマーのドミニク・ロピオンによる花の欲情をテーマとしたエクストレ・ドゥ・パルファン。ドルセーのためにつくられた愛の媚薬が情熱と高揚感をもたらします。

TONKA HYSTERIAは、調香師ジョルディ・フェルナンデスが一目惚れの衝撃的感覚をトンカビーンとアイリスのブレンドで表現した香りです。

INCENSE CRUSHは、調香師ジュリアン・ラスキネが恋に落ちた二つの魂をインスピレーション源に創り上げた香り。フランキンセンスをベースにウッディでスパイシーな香調が人々を惹きつけます。

2.今回発売される新作は、ブランドにとってどのようなポジションになるのでしょうか?

エクストレ ドゥ パルファンは、それぞれ核となる香料を最大限に生かすべく30%以上という高い賦香率と厳選された高品質の原料を用いて仕上げられています。

ドルセー初となるエクストレ ドゥ パルファンの本作は、“本能”をテーマとしそれぞれが溢れる感情を表現。瞬時に周囲を虜にし、魂を揺さぶる香りの構成は、よりラグジュアリーで特別な瞬間や「こうありたい」と願う自身を演出できるような特別なコレクションです。

ボディフレグランス(既存フレグランスライン)が人物像を描きその人が持つムードや佇まいを余白を持ってデザインしているのに対し、エクストレはより内面や感情の部分にフォーカス、より立体的で鮮やかに、そして深い余韻をお楽しみいただけます。

3.今回、それぞれの香水に合わせた什器を作成されたとのことですが、それぞれデザインについて教えて頂けますでしょうか?

D’ORSAYの最新作、〈本能〉をテーマにした EXTRAIT DE PARFUM の3種は、原始的でありながら質量を感じさせる、これまでの抽象的なムードの香りとは一線を画す作品です。

その「質量」を直感的かつ立体的に表現するため、ものや時間性、コンテキストに対する独自の視点を持つ3組の芸術集団と什器制作を共にしました。

* 建築集団 SAMPO(@we_are_sampo / @snake.time.works

* 祐天寺SEIN(@thesein) & jujiro(@jujiro)* ELIOS(@elios.elios.elios

彼らは山梨県北杜市にて「BASHBOX」(@bash___box )という空間を不定期に開放し、蒐集物や制作物、古いアートに機能を掛け合わせた作品を通じて、物質のもつ本質的な重みや時間の蓄積を提示しています。まさに今回の香りが持つ“質量”を視覚化する存在として共鳴するパートナーです。

FLOWER LUST

* 建築集団 SAMPO(@we_are_sampo / @snake.time.works

柔和で優美な花弁の開閉、そして時間の経過と連動するように広がる波紋のような香り。その香りの動きを、動的な装置へと変換しました。フランスとスイスの山間地帯にある、時計職人が集まる村、ジュラ…

この地では、一部の職人たちが時計技術を応用し、オートマタと呼ばれる機械仕掛けの人形や彫刻を生み出してきました。そのオートマタの歴史や機構に着想を得て、花弁の優美な開閉をキネティックな什器として仕上げました。 

TONKA HYSTERIA

* 祐天寺SEIN(@thesein) & jujiro(@jujiro)

異なる自然物のコラージュをベースに思考し、生命力に溢れ複雑に絡み合う豆の木材との出会いからスタート。卵形の部分と、岩の部分は造形作家のjujiroと作成。香りとリンクする造形になるまで多くの時間を卵型部分に費やしました。

デザインはこの香りの特徴的なベースノートの素材でもあるトンカビーンとバニラに着目し、静寂の森の深部に香る中毒性のある官能的で神秘的な甘さを、素材の加工や造形を用いて表現しました。

INCENSE CRUSH

* ELIOS(@elios.elios.elios

静寂の水面に広がる波紋。見えざる香りの余韻が、そっと可視化されていく感覚を起点に構成しました。

聖性と官能が溶け合い、二つの魂が共鳴し始める──

その静かに燃えつづける恋の余韻を、構造と質感の対比によってかたちにしています。

4.歴史あるブランドのD’ORSAYの特徴、そしてどのような部分が人々を惹きつけているのか教えて頂けますでしょうか?

深い歴史に付随する一言で表せない真実の美しいストーリーと、プロダクト一つ一つに込められたメッセージ性、多面的で想像力を掻き立てる香りのデザインがブランドの最大の特徴です。ドルセーのユニークネスのひとつは、それぞれの香水の名前がイニシャルで表記されていることです。このタイトルは、メゾンの創始者アルフレッド・ドルセーの秘密の恋から生まれました。既婚の年上の女性マルグリットと恋に落ちたアルフレッドが、彼女との手紙のやり取りにイニシャルを使っていたというストーリーからインスピレーションを得ています。香りそれぞれに付けられたイニシャルの人物の名前は明かされず、纏う人の想像力に任されています。匿名であることで、ご自身の経験や感情を投影し、香りを選ぶ楽しさにつながっています。また複雑でありながら繊細なスキンパフュームとしての香りの構成は、決して香りがひとり歩きせず”その人らしく香る”ことを特徴としています。香りをフラットに纏うことが出来、自然に生活の中に馴染みます。

そういった唯一無二のブランドの特性が人々に支持されています。

5.パリに続いての2店舗目を日本にオープンされたきっかけや経緯などがありましたら教えて頂けますでしょうか?

現オーナーのアメリー・フインは、「日本の文化的背景がとても好きなんです。歴史があり、繊細なことに目が届くといったところがとても。日本の皆さんはドルセーの世界観を理解し、好きになってくださると思ったのです」と語ります。アジア系の血も引く彼女は日本文化の美しさや背景とドルセーの世界観との親和性を感じ、世界2店舗目の旗艦店を日本に選びました。

6.パリと日本の店舗で同じ部分と異なる部分を教えて頂けますでしょうか?

店舗デザインはパリ本店を踏襲しており、日本にいながらパリを感じられるような世界観を創り出しています。例えば店舗に使われている材料の、トラバーチン石、真鍮、クルミ材はドルセーの象徴的な素材であり、パリ本店でも使用されています。

異なる点としては、接客方法ではないでしょうか。フランスは歴史背景として香水が文化に深く根付いており、お客様は自身の香りの好みがわかっているので選び方も好きか嫌いかのとてもシンプルです。逆に日本はお風呂の文化が発展したように、綺麗好きで、消臭文化が根付いています。そういった歴史的背景からも、香水=強いという固定概念や、香り選びに慎重な方が多いため日本のドルセーでは接客にとても力を入れています。好きなお洋服や、好きな音楽、どのようなシーンで使いたいか、普段の生活習慣、どうなりたいか、またはなりたくないか、など様々なヒアリングをさせていただき、その人に合う、長く時間を共にしていただける1本を選ぶお手伝いをしています。そのためドルセーのスタッフの接客は多くの皆さまに定評をいただいております。

7.今後のブランドのビジョンなどを教えて頂けますでしょうか?

アルフレッド・ドルセーは調香のみにとどまらず、絵画や彫刻、スタイリングなど、自由な精神と大胆さ、情熱的な芸術的センスが高く評価されてきました。ジャン・コクトー、マリー・ローランサン、ジョルジュ・ルパップなど、当時の芸術的、職人的な才能を持つもつ人物たちがドルセーの周りには集まり、彼らとともに時代を牽引していました。そういった歴史背景からも、ドルセーは建築家やアーティストとのコラボレーションを積極的におこなっています。今後も”香水”の枠には止まらない”アート”としての香りのアプローチを続け、多くの方に香りの素晴らしさを伝えていきたいです。