YUKI HASHIMOTO Special Interview

Editorial

YUKI HASHIMOTOが、本社を構える埼玉件ふじみ野市に自社LABOを本格的に構えたと聞き、実際に足を運んでみた。LABOには、デザイナーの橋本氏や企画、生産管理の方々に加えて、テーラーや縫製師の方々がおり、パターン作成や縫製など手作業で物作りを行っている現場を見ることができた。日本のブランドでは、珍しいこのような体制をなぜ築いたのかデザイナーの橋本氏から伺った。

WTS(以下W):LABOを始められた理由を教えて頂けますか?

YUKI HASHIMOTO(以下H):コロナのタイミングで皆さん工場が止まっていたとか色々あったと思うんですが、僕らも同じように色々あり、自分たちで考えた中で作れないっていうのは良くないと感じ、自分たちで作れる環境を整えてみたいと思ったのがきっかけです。それまではパターンも縫製も外の人にお願いしていて、言ったら企画しかこの場所ではしてなかったんですが、事務所の場所も広いし、ヨーロッパやアメリカのブランドで縫製の経験があるメンバーがいたので、自分たちで始めてみようかとなったのが一年半ぐらい前で本格的に動き始めたのは、2023年です。

W:実際にLABOを始めてみていかがですか?

H:日本の縫製だから全部がきれいとも限らなく、外で仕上がってきた物のクオリティのコントロールすごく難しかったんです。そのムラをなくしたいなと思っていたので今は、自分たちで縫製、確認も全部できるのでクオリティのコントロールがしやすくなりました。同時に難しかったことは、今もそうですが、設備や人を整えることが少し大変でした。でもメリットの方がやっぱり大きかったです。また、縫製工場さんが国内で減ってきていて、ブランドがいい工場に一気に集中発注をかけると、納期面などで卸先さんにご迷惑をかけてしまうこともなくはなかったので。そういったことを確実に減らしていけるのはメリットです。

W:今は、何名でLABOを運営されているんですか?

H:主に三名です。今年の4月から入って頂いた方は、ドイツ出身でビスポークのテーラードスーツを作る職人を20年ぐらいやられていた方です。うちでは、パターンを触ってもらうことが多く、縫製してもらうこともあります。その他の2人は、20代前半です。学校を卒業してからうちに入ってくれて、縫製をやってくれています。うちでは、機材的にデニムとニットはできないのですが、それ以外はコート、パンツ、テーラードジャケットなどを全て縫えるので。基本的には、サンプルから量産までうちで全部やっています。デザイナーズブランドだと量産で少ない枚数だと生産のコストが合わないので困ってしまう商品も出るじゃないですか。もともとは、このどうしようっていう枚数を解決できたらいいな、欲しいと言ってくれるお客さんがいてくれるなら、作れたほうがいいよねっていうのもLabを始めた理由にありました。基本は、その少ないロットを自分たちでやって、どうしても手に負えないような枚数のものは外の工場にお願いするとかって形です。

W:今は、外部の仕事も受けられているんですか?

H:そうです。多分僕たちと同じようにデザイナーズブランドさんって小ロットで普通の縫製工場だとサンプル扱いになってしまう品番が多少なりともあると思うんですよ。僕たちは、量産の工場っていうほど百枚とか千枚とか縫いますよっていうスタンスじゃないので、ちょっと困った品番があれば自分たちも困ったことがあるからお手伝いできればという思いでやっています。

W:橋本さんは、アントワープで働かれていましたが、メゾンなどで働かれていた経験や影響は多少なりありますか?

H:多分そうですね。特に僕は、マルジェラでレディトゥウェアの担当だったんですけど、オートクチュールをオフィスの中で作っていたんですよ。裁断師、パタンナー、縫製師が何名かいて、オートクチュールのサンプルと量産をそこで作っていました。それを見てきたのと僕が個人的に作るのが好きっていうのもあります。そういう意味で影響は、あったのかなと思います。

W:日本のブランドですとあまり聞いたことがない取り組みだったので、橋本さんが海外のメゾンで働かれていた延長線なのかなと思っていました。

H:その他にも理由がありまして、自分たちが卸先さんだったとしてお店で商品がなくなっちゃってもうちょっと欲しいとなっても時間がかかるじゃないですか、追加枚数の制限もあるし。でも今は、自分たちで作れますので数量にもよりますが2 、3週間、一ヶ月ぐらい待ってもらえれば対応できます。自分たちとか卸先さんに合ったペースで良い商品がちゃんとお客さんに届くような状況を作れるのは大切かなと思っているのも大きいですね。あとヨーロッパのブランドは、割とざっくばらんにやっているというか、自分たちでやること多いので、そういう意味では意識したことは、あんまりなかったんですけど影響はあったのかなと思います。その他でヨーロッパの時の影響が大きいのは、アーカイブですかね。このカーテンの向こう側に学生の頃から今までのアーカイブ全部残しているんですよ。マルジェラやラフシモンズもほとんどのアーカイブを当時保存していたかと思います。僕らもう全部残しているのでパターンデータを照らし合わせて次のシーズンこういうふうにしたいってなったら、参考になるシーズンのやつを持ってきて確認することができます。

W:日本だとあまり聞いたことはないですよね。だいたい皆さん外にお願いされていると思います。

H:デザインからパターン作ってまでは、どこのブランドさんでもわりとあると思います。でもそこからサンプルと量産を縫ってみないとその商品自体の問題点が意外と見えなかったりするんです。うちも以前パターンがちょっとおかしいことに気がつかないまま量産に進んでしまったことがありました。裁断の途中であらが出てしまい、裁断した半分が廃棄にせざるを得ないことがありました。デザインだけ、パターンだけではなく、ブランドをやり始めた時から自分たちで最初から最後までできるようなブランドになりたいなと思っていたんです。そういう意味で自分達で作るっていうのは、大切かなと思っています。

W:LABOを始められてから橋本さんのクリエイションで変わった点とかあったりしますか?

H:今までは、デザインを決めてパタンナーさんに頼んで、パターンが上がってくるまで待つじゃないですか。その間は、何もできないわけではないのですが、展示会までの時間もパタンナーさんの時間も限られているのでその中で試せるデザインの数が少なくなってしまうという部分がありました。限られた時間の中で僕がデザインして絵を描いても実物を見てみないとわからないっていうところがあり、決め打ちしなきゃいけなかったのですが、環境が整ったのでとりあえず一回ちょっと作ってもらい、ダメだったら出さなくてもいいし、良ければ出したら良いという風に一度試しに見てみることができるようになりました。細かいディティールのテクニックもそうですし、大雑把なシェイプも前までは、頭の中で大きい方が良いか小さいほうが良いかみたいなのを悩んでいたのですが、一回大きいのも小さいのも作ってみて良いかどうかで判断しようという風にやりやすくなりました。クオリティにしてもデザインにしてもプラスになった部分ですね。

W:どこのブランドさんでも外注する中でかゆいところに手が届かないという部分を改善することによって日本のテーラリングしかり縫製とかを変えていける可能性を持っていると思うんですよ。今後もLABOを大きくしていきたいと思われていたりしますか?

H:そうですね、LABO自体をもっと大きいものにしていきたいですね。先ほども話しましたが、アイテムに関してだとニットとデニムが現在作ることができません。例えばデニムは、大まかにミシンが違うので、それは設備の問題になります。自分たちで作れるアイテムは、設備とともに増やしていきたいなと思っていて、最終のゴールは、カバンも靴も皮系も縫えるようになりたいですね。LOOKを組むのに必要な物は全部自分たちで作れるような環境にしたいなと思います。

W:本当にメゾンと同じというか全部自社で完結できるとうところを目指されているのですね。

H:そうですね。プリントとかまではまだ考えていませんが、とりあえず縫うところに関しては自分たちで作れるようにはしたいなと思っています。

W:そこまでいったらすごいですね、本当になんでもできるというか。

H:そうですね試せることも増えると思います。やっぱり見てみないとわからないので。絵を売る人達やグラフィックをデザインされる人達だと絵を描けば良いと思うんですが、僕らはコミュニケーションの手段としてデザインを書くだけなので最終的に作る物は、3Dというか物体じゃないですか。そこが作れないっていうのはグラフィックデザイナーで言うところの絵がかけないと一緒なので、作れるようになったのは大きいですね。

W:実際にイメージと上がってきたサンプルが違うって言うケースって当然あると思うんですが、その誤差を減らせるようなこともありますか?

H:そうですね、縫製やパターンの途中でコミュニケーションも出来るので、仕様書通りだとちょっと見た目が微妙だから少しピッチを変えてほしいとかっていうことも話せますし、縫い途中でここをこういう風に縫える?とかっていう話もできるので。

W:オートクチュールじゃないですが、ワンオフのようなご要望をエンドユーザーさんから受けることってあったりしますか?

H:今のところやったことあるのは、衣装とか個人でいうと友達とか近しい知り合いの方にシャツ作ってよとかちらほらあるんですけど、オートクチュールみたいな感じでやったことはないですね。ゆくゆくは、できたら良いですね。隣の部屋が簡易の撮影スペースみたいな感じなんですが、向こうの部屋までいけるぐらい規模を拡大したいなと思っています。人員もそうですし、あと機材とか設備も増やしたいなって思っているところです

W:LABOを始められてバイヤーさんや消費者さんからのポジティブな反応も多いんじゃないですか?

H:そうですね、ポジティブな面ですと、B品が出たことがほとんどないです。消費者さんと直接話したってわけではないですが、誰にも迷惑かけずに済んだっていう意味ではすごく良いことかなって思います。追加対応もそうですし、一回だけやったんですが、正規のサイズだとそこのエリアのお客さんに合わないからちょっとだけウエストだけ大きくして作ってくれないって言われたことがあったんです。それも対応できたので、そういうところは、多分自社でやってないと難しいと思います。何十枚、何百枚ある中で数枚だけその店舗さんのサイズってなると工場さんも困惑してしまいます。コントロールが難しいですし、裁断もバラバラになりますし。逆に外注するとパターン代などコストがかかるので定価も上がってしまいます。うちの場合は、ケースバイケースになりますが、基本的には大丈夫ですよって感じでできるのでそれはひとつ寄り添ってできることかなと思います。

W:橋本さんが海外のメゾンで元々働かれた経験や海外のカルチャーを日本に還元されていて、日本のテーラリングの底上げや若い方への進路じゃないですけど、そういうこともできそうだなと感じました。

H:直接ブランドがやっている縫製工場はないと思います。縫製工場ですと多分デザイナーは、現場にいないんですよ。仕様書とかパターンに記載されているとはいえ、現場で起こる微妙なさじ加減のジャッジを誰かがしてあげなきゃいけないじゃないですか。それを僕らの会社だと僕がいるのでジャッジができます。他の縫製工場と違うスタンスだし、自分のブランドで自分たちのものを作っているっていうのは強みなので、そういうところを武器にやれたらいいなと思っています。

W:今後このラボをどうしていきたいですか?

H:やっぱり自社完結していきたいところです。あとは、同じように困っているデザイナーズブランドの方々がいたら協力したいなっていう感じですね。

TEXT:SHUHEI HASEGAWA

PHOTO:TOMOYUKI NAGASHIMA