アートとファッションの関係性はいつから始まったのだろうか?
恐らくElsa SchiaparelliとSalvador Daliが1930年代にコラボレーションを行ったことが始まりだろう。その後ファッションとアートは幾度となく交わってきた。アーカイブがミュージアムやオークションハウスに並ぶ現代では、どちらもアートと呼べるのかもしれないが、その関係は今も続いている。
今回は、アートとファッションの関係性に置いて近年で最も影響力のあるグラフィックアーティストPeter Saville (ピーター サヴィル)に触れてみたい。
RAF SIMONSとの伝説的なコラボレーションやYOHJI YAMAMOTOの広告、近年では、BURBERRYのロゴもデザインするなどファッション業界に大きく貢献してきたイギリス人グラフィックアーティストだ。
誰もが一度は目にしたことがあるJoy DivisionのUnknown Pleasuresのカバーアートを制作した人物として知られる。彼は、オリジナルのアートワークの制作だけではなく、今でこそHip Hopや多くのデザイナーが行っているサンプリングのような手法にも非常に長けている。
Unknown Pleasuresの波形のグラフィックは、 ケンブリッジ天文学百科事典からコピーされたもので初めて発見されたパルサー(パルス状の波を発する天体)CP1919の無線パルスの画像だ。
また、New OrderのカバーPower Corruption&Liesは、18世紀の画家アンリ・ファンタン‐ラトゥールの絵画をベースにバンド名と曲名をカラーコードにしたものをサイドに落とし込み完成させた。


Unknown Pleasuresが発売されて約20年経ったころ、Peter Savilleのグラフィックをベースにファッションという形で新たなアートを作り上げたのは、RAF SIMONSと言えるだろう。近年のアーカイブ人気を牽引してきたRAF SIMONSのアーカイブの中でも彼のアートワークを使用したものの評価は特に高い。
だが、彼のアートワークをより幅広い層に広めたのはSupremeと言えるのではないだろうか。
今ほどモードとストリートがクロスオーバーしていなかった時代に彼のグラフィックをストリートウェアに落とし込んだことは革新的でJoy DivisionもPeterを知らない若い層の記憶にそのグラフィックを焼き付けた。
両ブランドのデザインへのアプローチは、全く異なるものでRafは、ポストパンクバンドというカルチャー、そしてそのバンドの印象的なグラフィックを制作したPeter Savilleから着想を得てコレクションを制作。
自身がデザインした服をパレット代わりにグラフィックや曲名などをアクセントとして落とし込んだ。モッズコートの背面に配置されたグラフィックや細部にペイントされた文字は、コートをアートワークへと昇華させた。

一方でSupremeのアプローチは、Tシャツやスニーカー、パーカー、そしてブランドのバックグラウンドでもあるスケートデッキなど身近なアイテムに落とし込んだ。
特に印象的なのがSupremeより2013年春夏に発売されたコラボレーション。
New OrderのPower Corruption and riesのカバーアートを幾重にもコラージュさせて使用。高級感のあるデザインをストリートブランドらしいアプローチで総柄にすることで全く新たなデザインを作り上げた。
Peterのアートワークが絵画をベースに制作されたものとわかった上でSupremeも遊び心のあるアプローチをしたのではないだろうか。同じアートから影響を受けたとしても、各デザイナーの背景や感性は異なり、それがアプローチ方法そしてデザインに違いに表れている。


先にも述べたが、近年ではアート同様に貴重なデザイナーブランドやメゾンのアーカイブがミュージアムで展示されるだけでなく、オークションで販売されるなどアーカイブへの評価が世界的に高まっている。デザイナーのクリエイティビティとアートが結びついたアーカイブこそが着用できる究極のアートと呼べるのかもしれない。
Photo by Joy Division, New Order, Supreme